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新世紀メディアパプリッシャ― インタビュー

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インタビュー 2009/06/25
ブック・コーディネイター 内沼晋太郎さん(2)
書店空間メディアの可能性


―著書が出版されたあと、新しい動きは出てきましたか?

えぇ。ありがたいことに、本の小規模流通やインディペンデントプレスのお話、書店のコンサルティングやライブラリのディレクションのお話など、いくつかいただいています。
それと当時構想していた企画の一つを形にしました。今、青山のスパイラルカフェというお店で「文庫本セット」というフェアを開催中です。従来カフェには「ケーキセット」というメニューがよくありますよね。ああいう形で、文庫本とワンドリンクをそれぞれメニューの中から選んでもらうというセットをお客さんに提供しています。僕が月に5冊文庫本を選び、毎月5セットの月替わりMENUとしてお客さんに提供します。
MENUには選んだ本の書き出しの文章が載っていて、その箇所を手がかりに選んでもらいます。文庫本はケーキのように、お皿に乗って運ばれてきます。
これは非常に反響が良くて、テレビや雑誌、新聞、ブログなんかのメディアに掲載してもらいましたね。



―お皿に本とはユニークですね。カフェ展開を考えた理由は?

過去に、カフェに本棚があるからそこに売り場やライブラリをつくってくれという依頼を受けたことが何度かあるんです。ただ、飲食店である店に本棚を設置しても実際にお客さんに手に取って楽しんでもらうというのはとても難しい。本がただの飾りになってしまっているケースをよく見かけるので、それを非常に歯がゆく思っていました。

―カフェと本棚は相性が良さそうだと思っていましたが。

そのカフェのイメージを表現するためのインテリアとしてであれば、きちんとセレクトしてきれいに並べるだけですが、実際に手にとって読んでもらおうとすると、そのための環境づくりは意外と難しいんです。本のセレクト内容というよりは、まずお店の人がそこに並んでいる本についてお客さんと会話できるかとか、そういう部分のほうが大切になってくる。その本を売ろうと思うとさらに難しい。

-本棚がただのインテリアになってしまうと。

それでぼくが辿り着いたひとつの答えがMENUだったんです。飲食店でモノを売ろうというなら、それはMENUの中にないとダメだろうと。値段が高い単行本だと難しいけれど、文庫本ならケーキと同じような金額で出せるし価格も揃えやすい。たまたま少し時間があってフラっと入ったカフェで、メニューに文庫本が並んでいたら、ふだん本屋に行かないような人でも「ちょっと読んでみようかな」と思うかもしれない。逆にいつでもかばんの中に本が入っているような人でも、ちょっと時間が空いてカフェに入ったようなときに、その日に限って本を持ってくるのを忘れたことに気づくかもしれない。
5冊という限られた冊数の中から、タイトルと著者と書き出しの文章だけを頼りに本を買うという経験も、普段はなかなかありません。そういうカフェならではの、ちょっとした偶然の出会いが演出できればと思ったんです。
もちろん飲食店なので、アパレルの例と同様に原価率がぜんぜん違うという問題や、回転率が下がるのではないかという懸念もあります。いろいろな人に無理をいってやっと実現した企画で、今の段階ではまだ実験です。ただ、これが実際にはほとんど回転率を下げないとか、新たなお客さんの獲得につながるとか、そういうことがいえるようになれば、もっと大きな規模で展開するということもあり得るのではないかと思っています。


●書店空間が持つ、ブランディングの可能性と課題

―お洒落なカフェにはカルチャー系リトルプレスなんかも置かれてますね。

書店や出版社勤務の人に限らず、リトルプレスを作る人がどんどん増えてきています。ただ、作った後にそれを置いてくれるお店や団体を探すのに手間がかかることはプロもアマも変わりません。
配ることや置く場所の開拓をそれぞれがやるというのもいいんですが、そのための流通チャネルや下地作りといったものが必要なんじゃないかと思います。
できればamazonやbk1といった大きなサイトとコラボレーションして、そこに付随する形で決済のシステムをそのまま使って、インディペンデントなマガジンや書籍を紹介するポータルみたいなものをつくりたいと思っています。質的な選別はきちんと行って、在庫を持つものと持たないものとを分けて、在庫を持たないものは発行者から直接発送してもらい、逆に在庫を持つものに関してはネット販売だけでなくリアル書店への卸も行う。
リアル書店側は、他店にはあまり売っていない本を仕入れることで差別化を図ることができます。

―新刊に加えて古本を扱うことでオリジナリティが生まれる可能性もありますよね。

そうですね。他の新刊書店にはない品ぞろえという意味では古本も大いにありでしょう。もう、書店は品揃えや空間そのものといったサービスに付加価値をつけて勝負していく時代になっています。
まずは付加価値にコストをかけられるような環境の下地づくりが必要でしょう。書店員のなかに、本屋さんという小売店におけるコミュニケーション担当を設けられるような環境。本とお客さんの間にあるものをデザインすることや、仕掛けを考えることにもっと専念していく必要があると思うんです。昔から、イベント担当やMD担当という存在はお店の現場にもいたと思いますが、それをさらに突き詰めていくということでしょうか。また、一部の大手書店をのぞくと、そういう人でもふだんはレジを売ったり品出しをしたりというような業務と兼任していたりするでしょう。

―利幅の薄い書店業で、専任担当を置くのは難しそうじゃないですか?

もちろん現状はそれを前提とした利益構造になっていませんから、多くの方がそうおっしゃいますが、それでは書店業はますます難しくなるのではないでしょうか。
各店舗に置くのが難しければ、その書店全体のブランドイメージを統一するクリエイティブディレクターが巡回するようになるだけでもだいぶ変わりそうです。

―CVSのスーパーバイザーが担当エリアのコンビニを巡回するように、書店のデザイン担当が各店のブランドイメージを巡回しながら統一していくイメージですか?

そうですね。売ることだけではなく、うちの本屋はどういう情報、イメージを発信するのかという全体を考える人がもっと生まれていく必要があると思うんです。
今、専業の書店チェーンでもブランドといえるブランドイメージがある書店は少ないですよ。ジュンク堂だったら「図書館みたい」とか、紀伊国屋だったら「老舗だから安心」とか、一般のユーザーにとってはせいぜいその程度でしょう。書店チェーンはたくさんありますが特徴らしい特徴がもったところが少ない。もちろん注文すれば全国どこでも同じものが手に入るという、長年をかけて培われた流通システムはすばらしいものです。ただ、だからこそ特徴のないナショナルチェーンがこれだけたくさん生まれてしまったわけで、こういう業界はむしろ珍しい。業界全体のパイが狭まっていくのは目に見えているので、他の書店と差別化できる要因がたくさんあるいまこそ、コミュニケーションの部分にコストをかけていくべきなんじゃないかと思います。
集客力の高いメディアとしての書店空間の価値は未だ健在だと感じます。ただしこの先、生き残っていけるかどうかは、集客力に加えてある種のブランド力を構築できるかどうかにかかっているんじゃないかと思いますね。

―書店でもそんな提案をしていく若い人が増えていくと面白そうですね。

こうした仕事をする人がどんどん出てきてやって行かないといけないんじゃないかと思います。でも、ごく普通の本好きの人、出版業界の人がすぐできるかというと、それなりの覚悟が必要かもしれませんね。

―出版の知識だけではブック・コーディネイター業は難しいですか?

何をもって「ブック・コーディネイター業」というかによりますが、ぼくのやっている仕事という意味ではそうですね。何であれ今までにないこと、新しいことをやろうとするのであれば、たくさんの視点を持っていたほうがいいと思います。あと、これはコンテンツを扱うビジネス全般にいえることだと思いますが、面白いことをきちんと面白がることができる感覚と、ビジネスのことをきちんとビジネスライクに扱うことができる感覚の両方が必要だなと感じます。
そういう意味で僕がラッキーだったのは、往来堂でフルタイムではなく、週に何日か午後の時間だけアルバイトとして働かせてもらえたことと、出版業界内で長い経験を持ちながらもその中で異端とされる先輩方と知り合えたこと。書店業務の基本を学びながらそれ以外の時間で自分の活動をして、かつそれらを通じて業界内外の多くの人と知り合うことができた。そのときの経験や出会った人々がいなければ、いまの僕はないです。従来型の出版流通モデルに無理が出はじめている以上、業界内のこともある程度わかっていて、かつぜんぜん別の業界のこともよく理解しているような人が、きっと近いところで仕事をしていくことになる人なんだろうと思います。




 

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