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本と本屋さんの夕日

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プロフィール:永江朗(ながえ・あきら)
1958年5月9日、北海道旭川市生まれ。
洋書輸入販売会社に勤務したのち、フリーランスのライター兼編集者に。1993年よりライターに専念。現在、「週刊朝日」「エコノミスト」「ダ・ヴィンチ」「朝日新聞」をはじめ、数多くのメディアで連載中。
主な著書に、『菊地君の本屋』(アルメディア)、『不良のための読書術』『アダルト系』(以上、ちくま文庫)、『インタビュー術!』(講談社現代新書)、『〈不良〉のための文章術』(NHKブックス)、『メディア異人列伝』(晶文社)、『話を聞く技術』(新潮社)など多数。近著は『本の現場』(ポット出版)
現在、早稲田大学文学学術院教授。同大文化構想学部にて出版文化概論講義を担当。

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コラム 2009/11/30
第47回 本棚の歴史(3)80年代書店の本棚革命


●書店の本棚の変化

書籍市場がピークに達した1980年以降は、家の本棚だけでなく、書店の本棚においてもさまざまな変化がありました。
書店は、壁面と平台と島棚(壁に面していなくて独立していて立っている)とストッカー(棚下の在庫収納スペース)の4つで成り立っています。

90年代に入り、本棚は次第に低くなる傾向にありました。
ひとつめの理由は在庫を減らし、商品の回転率を高めるためです。
IT化の波が90年代後半に書店業界にもおとずれ、POSレジによる単品管理システムの導入と同時に、小人数で店舗を回すローコストオペレーション化が進行しました。
ふたつめは、店舗の本棚を低くすることで、小人数でも万引き防止のための監視が生き届くだろうと書店チェーンの本部が考えたからです。

ところが、90年代後半から再び書店の本棚は高くなっていきます。
1997年に 「図書館より、もっと図書館」というコンセプトで1000坪のメガ書店、ジュンク堂池袋店がオープンしました。
この店の本棚は、低い本棚というこれまでの流れに逆行し、天井近くまでそびえていました。
店を視察した書店関係者は、図書館のような高い本棚を見て衝撃を受けました。ローコストオペレーション化や万引き防止には不都合な本棚でしたが、圧倒的な専門書の品揃えが書店関係者に加え読者の大きな反響を呼びました。そして00年代以降は、大型店の本棚を高くして在庫を充実させる流れになっています。


●メディアとしての本棚

本棚の高さ以外でも時代によって流行はあります。
かつて、書店では本を図書館のような十進法のようなやり方でジャンル別に分類していました。
人文・社会科学においてニューアカデミズムが流行していた80年代、リブロ池袋店の本棚、通称「今泉棚」と呼ばれた本棚が書店業界にショックを与えました。
のちに前橋の喚呼堂を経て、長野の平安堂書店店長になる今泉正光という書店員が発明した画期的な本の分類方法による棚のことです。
今泉は、国内で入手しうる、ありとあらゆる専門書、啓蒙書、思想書、原書を網羅し独自の感性で分類しました。従来の十進分類ではなく、話題のテーマを中心にジャンルをまたいで関連する本を並べていく方法で「棚を編集」したのです。

80年代以前の書店の本棚はいってみれば単なる本の倉庫でした。
この今泉棚が登場したことで、本棚がメディアに変わっていった。
書店は「いま」を伝えるメディアとしての本棚、読者の海図としての本棚の可能性に気がついたのです。

最近、柴野京子という研究者が『書棚と平台』という本を出版しました。
彼女はその中で「購書空間」論を展開しています。現代の書店空間は書棚と平台の組み合わせであり、書棚と平台はそれぞれルーツも役割も異なる空間なのだという主張です。書棚は、どちらかというと硬い本や専門的な本、いわば図書館的な本を扱う通時的空間。
これに対して平台は、話題の本、やわらかい本を扱う共時的な空間だとしています。

書棚と平台-出版流通というメディア<br><br>
『書棚と平台-出版流通というメディア』
柴野京子 著  2009年 8月 弘文堂刊

◆作品紹介
メディアとしての出版流通が、読者にひらく可能性とはなにか?日本の出版産業は、流通に最大の特徴がある。人が本と出会い、選び、買って読むということが、どのような場面で、どのような動機や文脈をもって行われ、誰によって形成されてきたのかを、出版産業・流通史をもとに検証する。



もともと日本の初期の書店は、カウンターで欲しい本を注文して取り寄せる対面販売の場所でした。
書棚のルーツはこの閉架的な空間をルーツとしている。
それに対して平台のルーツは大きな台に本を並べて売る露店販売だった。
時間の流れで考えると、時代を問わない水平的な軸が書棚で時代の旬を追う垂直的な軸が平台。その水平と垂直が交わる場所が「購書空間」としての書店です。
書店という見慣れた空間はそんな歴史的な意味を持っており、二つの異なる出版文化の交差点としての役割を担っています。

本棚は書店にだけ置かれるものではありません。
「その本を売る」ための機能に特化した棚は書店の外に出ていきます。キオスクの本棚は、実用書や紀行小説、官能小説など旅のお供的な本を売る棚です。スーパーの回転ラックと子供を持つ主婦向けに絵本は売る棚。もうあまり見かけませんが、80年代までは路上に設置されていた自動販売機はエロ本を売る棚だといえるでしょう。


●本と本棚は凶器になることもある

3回に渡り本棚の歴史について説明してきましたが、最後に、本棚が起こした最近の事件について触れておきます。

2009年10月13日、札幌市の古書店で本棚が倒れ、そこにいた人が本棚から崩れ落ちてきた本に埋まってしまい重体に陥るという事故がありました。
被害にあったのは、中学3年生の姉と小学5年生の妹、そして19歳の従業員でした。姉妹のお姉さんと従業員は軽傷でしたが、妹は胸などを打って意識不明の重体。救急隊員はシャベルで本を書き出して姉妹を救出しました。

この書店の店内には2万5千冊の本やDVDがあり、壁面のほか4列の木製本棚が並んでいたのですが、そのうち3列が倒れました。
事件の後に調べたところ、倒れた本棚自体がとても脆弱な木で作られていて、こういった使い方を想定されていなかった。この事件の原因は、本棚の設置方法に問題があった可能性が濃厚です。

本の下敷きになって人が亡くなったという事件には前例があります。
2009年8月、静岡市の女性が、地震で崩れた本の下敷きになって亡くなった。昨年2008年6月、宮城内陸地震で仙台の男性がアパートで本の下敷きになって亡くなりました。
阪神淡路大震災(95年)では、本が弾丸のように横から飛んできたり、本棚が倒れて人を下敷きにしたり、避難しようとする人々の行く手を阻んだといいます。

基本的には一般の書店の本棚は、滅多なことでは倒れませんので安心してください。新刊書店の本棚は丸善製など業務用のしっかりした棚を使っています。丸善の本棚は震災でも倒れませんでした。新刊書店が新規開店する際、開業前に取次の書店開発コンサルタント部門が棚の強度やレイアウトを含めた使い方をしっかりチェックするので大丈夫でしょう。そして、老舗の古本屋も本棚の安全性にはかなり気をつかっています。

むしろ危険なのは一般住宅の本棚です。本の重みで下宿先の木造アパートの床が抜けたという話は昔からよくあります。本をたくさん買っているあなたの本棚は大丈夫でしょうか?

地震や台風といった天災もいつやってくるかわかりません。
本や本棚の機能について考えるのとはまた別に、本の保管の仕方についても気をつけていく必要がありそうです。


これまで、本と本棚の歴史をたどってきました。
本と本棚が一体化して動いてきた一方で、本棚とは独立して動いてきた本がありました。
それは、持ち運べる本=ペーパーバックとしての文庫と新書です。

次回からは、文庫と新書が出版文化をどう変えていったのかについて考察していきます。


 

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