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本と本屋さんの夕日

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プロフィール:永江朗(ながえ・あきら)
1958年5月9日、北海道旭川市生まれ。
洋書輸入販売会社に勤務したのち、フリーランスのライター兼編集者に。1993年よりライターに専念。現在、「週刊朝日」「エコノミスト」「ダ・ヴィンチ」「朝日新聞」をはじめ、数多くのメディアで連載中。
主な著書に、『菊地君の本屋』(アルメディア)、『不良のための読書術』『アダルト系』(以上、ちくま文庫)、『インタビュー術!』(講談社現代新書)、『〈不良〉のための文章術』(NHKブックス)、『メディア異人列伝』(晶文社)、『話を聞く技術』(新潮社)など多数。近著は『本の現場』(ポット出版)
現在、早稲田大学文学学術院教授。同大文化構想学部にて出版文化概論講義を担当。

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コラム 2009/08/17
第26回 人はなぜパソコンで本を読む夢を見続けるのか


アマゾン・コムの登場により、コンピュータを使って欲しい本を探し、購入することが当たり前のことになりました。

もともと本が生まれる現場では、編集にしても印刷にしてもコンピューターが使われるようになっています。今や本の流通現場でも販売と管理のほとんどをコンピューターがやっています。紙に印刷してとじた本というものの形そのものこそここ500年変わっていませんが、その裏側は最近の30年間で大きく変わりました。いまや本はコンピューターで出来ているといっていいのです。

コンピュータで出来ている本をコンピュータで読む時代はいつ来るのでしょうか?
20世紀に誕生して以来、コンピューターの普及に関わってきた世界中の人たちはこのことに大きな関心を持ってきました。本をディスプレイやスクリーン上で読むことができるようにしたい。これが彼らの願いです。

それではなぜ「コンピューターで読書」ということが関心を持たれてきたのでしょうか。

一つは流通の手間とコストをどう省くかということが大きい。
最近出てきた「責任販売制」という言葉の根底には返品率の高止まりという問題があります。欲しい本がなかなか手に入らない。あるいは、小さな書店には要らない本ばかり送られてくる、という流通の非効率性が問題にされてきました。そんなことから、電子化によって課題とされてきた流通の手間とコストを省くことができるんじゃないかという期待が高まってきたのです。

もう一つの理由は、本の電子化が資源の問題を解決していくんじゃないかという期待感です。
成長を続ける中国・インドなどBRICS諸国が先進国並みに紙を消費するようになったら、地球上の木がなくなってしまうんじゃないかという不安があります。また、広大な国土を持つこうした国が日本のように大量の新刊を毎日トラックで全土に運ぶようになると、ガソリンの消費量だけでも莫大なものになってしまう。物理的な形を持つ本というものが世界中で大量に生まれ大量に流通され続けることで、莫大なエネルギーが消費されてしまうことは目に見えている。

電子本の普及によって、本が物理的な形を持つことによる課題を解決してくれるんじゃないか。
物理的な形を持っているがゆえの品切れや絶版もなくなるんじゃないか。
本棚や書店の棚がいっぱいになってしまうこともなくなるんじゃないか。

こうした期待から「いつでもどこでも本が買えて永久に読むことができる」時代の到来が夢想されてきたわけです。


●家電メーカーの熱さが読者に伝わらなかった理由

高度経済成長期が終わったころから、一部の関係者の間で電子出版や電子書籍という言葉が熱く語られるようになりました。
ところが電子出版や電子書籍というものは、これまで頻繁に語られて幾度も形を変えて登場してきましたが、いまひとつ普及していません。この夏もauから携帯にしては大きな画面で電子書籍が読めることを謳った『biblio』というケータイが発売されました。ちなみに、Sonyが5年前に発売したものの普及しなかった読書専用端末『LIBRle』と名前が似ていますね。

いずれにしても、繰り返し「今年こそ電子書籍元年だ」と言われ続けてきましたが日本市場では定着しなかった。まるでオオカミ少年です。

それではなぜ読書専用端末は普及しなかったのか?

一つ目にインターフェイスの問題があります。
紙をぺらぺらめくる感覚をそのまま電子で再現しようとしたことです。
ところが紙のまねをしようとしても本物の紙にはかないません。

二つ目に価格の問題があります。
ブックオフで100円で本を買って読める時代に、何万円もする読むためだけの端末を買う人がいるでしょうか。これ1台で本がたくさん蔵書できます、と言われたところで本の代金は端末代に含まれていません。逆に端末を買うお金で何百冊もの紙の本が買えてしまうではないか。そんな疑問がわいてきます。

三つ目に課金や流通の仕組みがわかりづらく、使いづらかった。
また互換性のなさに問題も抱えていました。

四つ目にガジェットとしての耐久性が弱かった。
読書専用端末は電池が切れる。充電池にも寿命がある。すぐ壊れてしまう「本」だったのです。本を永久に保存することができると謳われた電子書籍の寿命は意外と短かいことがわかってしまった。

こうした問題点から見えてきたのは、電子書籍の支持体としての脆弱さでした。データを蓄積し、ビューワ上で見せる支持体があまりに短命で脆かった。新品であっても壊れる可能性がありバックアップが必要だったりする。記憶装置の寿命が短く、寿命が切れるともう読めなくなってしまう。2004年に発売された読書専用端末「∑ブック」や「LIBRle」で読むために購入した電子書籍は、発売後からたかだか5年経っただけでもう読むことができません。これは電子メディアの限界ともいえます。
現在、文書作成ツールのデファクトスタンダートになっているマイクロソフトのWordですら、いつまで読めるか保証はありません。Wordで書きためて保存した文章もマイクロソフトが倒産したら読めなくなってしまうのかも知れない。Wordが無料化されても読めなければしょうがない。

こうした電子メディアが持つ問題点によって、紙の本が持つ良さが改めて再認識されました。紙の本がいかに優れたものであったかということでしょう。

神保町の古本屋では100年前の本も売られていて現在もこれを読むことができます。紙の本は短命といっても、和紙に墨で書いた本は千年ぐらいは持ちます。それと比較しても「電子メディア=永久不滅」説はただの錯覚でしかなかったのです。


電子出版クロニクル ~JEPA(日本電子出版協会)のあゆみ~
『電子出版クロニクル ~JEPA(日本電子出版協会)のあゆみ~』
日本電子出版協会 1680円(税込)

1986年、日本電子出版協会は、電子出版文化の構築を通じて社会の健全な発展に寄与することを理念に創設された。今日、電子出版を取り巻く環境は、新しい電子デバイスの登場、インターネットや携帯電話の普及など、多くの点で協会設立時とは大きく様相を異にしている。この20年間、電子出版の第一線にあって苦闘してきた当事者たちが初めて明かす開発ストーリーは、協会の設立から現在に至るまでの日本の電子出版の歴史を詳細に記録した年表とともに、日本の電子出版を知る上で第一級の資料である。
 

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