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本と本屋さんの夕日

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プロフィール:永江朗(ながえ・あきら)
1958年5月9日、北海道旭川市生まれ。
洋書輸入販売会社に勤務したのち、フリーランスのライター兼編集者に。1993年よりライターに専念。現在、「週刊朝日」「エコノミスト」「ダ・ヴィンチ」「朝日新聞」をはじめ、数多くのメディアで連載中。
主な著書に、『菊地君の本屋』(アルメディア)、『不良のための読書術』『アダルト系』(以上、ちくま文庫)、『インタビュー術!』(講談社現代新書)、『〈不良〉のための文章術』(NHKブックス)、『メディア異人列伝』(晶文社)、『話を聞く技術』(新潮社)など多数。近著は『本の現場』(ポット出版)
現在、早稲田大学文学学術院教授。同大文化構想学部にて出版文化概論講義を担当。

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コラム 2009/06/30
第16回 誰からも愛されたい人は、誰からも愛されない


●物語る書店空間はなぜ若者のコミュニティとなったか

それでは、小売店としてのヴィレッジヴァンガードの特徴を考えていきましょう。

仕入面では、定番という考え方が特徴的です。
これは2シーズン制がしかれ、定番モノを重視するアパレル業界から来た発想でしょう。
新刊を追いかけず、いつも在庫を切らさずに置いてある定番本が店のカラーとなり、他店との差別化とVVのブランディングに貢献した。

取次に頼らないというポリシーも明確です。
新刊書籍ではなく定番本、多種多様なアイテムを仕入れるという点では、取次が持つ無数の取引ネットワークを利用しつくしますが、売れ筋の配本部数調達のために取次に頭を下げるようなことはしません。ヘゲモニーは書店が握る、嫌われることも怖れないということです。

雑貨の品揃えにも2つの流れがあります。
本の内容に関連する雑貨と役に立たない雑貨です。
役に立たないものも仕入れたという点が、菊地の経営者としての天性の嗅覚だったといえるかもしれません。
役に立たない雑貨は売れないがゆえの希少性もあり、「あの店変わったもの置いているぞ」という口コミを誘発します。

どどーんと注文しどど~んと積む大量仕入れ、大量陳列に特徴があります。
そのため、遊び感覚のある書店員の注文センスを重視しており、「仕入れ」概念のない書店業界では異例の大量仕入れを実行しています。
そして、POSレジに頼らない遊びの目利きといえるVVの書店員による雑貨の大量仕入れは結果的に問屋を育てることにもつながった。
データ通りになんとなく配本しなんとなく追加注文されればそれなりに売れる、という従来のやり方とは異なり、ばくち的な仕入リスクを負った書店と問屋の間で、ある種の緊張感のある仕入交渉が発生するからです。

とはいえ、乏しい資本金からスタートしたVVの初期、雑貨の中心はバッタ品とVANの洋服でした。VANはB.Dシャツやチノパンなど団塊世代の青春アイテムともいえるアイビーファッションで、これも菊地の趣味ですね。
登山に熱中した菊地の趣味で置かれたアウトドア用品は、結果的に雑貨販売と書籍販売との相乗効果を生み出しました。1万円以上するようなアウトドア雑貨の隣に置かれると、1000円~2000円前後の本がとても安く見えたのです。ふだん本を買わない若者も、遊びに寄ったVVで手ごろな本を買うようになりました。


それでは、店舗空間の新しさもみてみましょう。

VVは、おもちゃ箱をひっくり返したような「物語のある空間」を演出しています。
内装の特徴として、異常に高い本棚にははしごがかかっていて、そこには双眼鏡がぶらさがっている。遠くの本の背表紙を読むためです。天井から自転車や軽飛行機が吊り下がっていたりもします。ちなみに、高いはしごを設置するに際して、取次の猛反対を受けました。万一、お客が落ちてけがをしたらどうするのだ、というわけです。この辺は、VVが読者にとって親切なのか不親切なのかよくわからないところですね。しかし、その後、まねをしてはしごをつける書店が続出しました。

いずれにしても、こうしたユニークな雑貨の存在によって本屋らしからぬ物語性を帯びた店舗空間の演出に一役買ったのは間違いありません。
VVを語るにあたり、物語のある品揃えと陳列方法も見逃せません。1冊の本から物語性を広げていくことにとても長けています。
一例はこんな感じです。
『ティファニーのテーブルマナー』という本の隣に『ティファニーで朝食を』。そこからオードリー・ヘップバーン関連の本を。さらにテーブルマナー関連の実用書を。CD、フェア・グランド・アトラクション『ザ・ファースト・オブ・ミリオン・キッズ』(ジャケットがエリオット・アーウィット)。そこからキス関係の写真集など。
従来型書店の、図書館の十進法をベースとした陳列方法とはまったく逆行しています。

そして、本を物語るツールとしてのPOPの威力を発見したのもVVです。POPはpoint of purchase advertising(販売時点広告)の略で、そのルーツは輸入CDショップのコメントカードから来ています。音楽業界が80年代に大きいレコードから小さなCDに切り替わった時、曲目や説明文も小さくなり読みづらくなったので、ジャケットにPOPを貼り付けたのがその始まり。
VVが本の販促で用いたPOPは本のあらすじ説明ではなく、書店員から同世代へのメッセージとして機能しました。
内容よりインパクト重視、ウケることが重要なんです。

物語る書店空間VVは、若者たちの新たなコミュニティとして全国に拡大していきました。

飽和しきった書店業界でこれほどまでの大成功を収めたポイントを整理しましょう。

  「遊べる本屋」というコンセプト
  脱書店
  高い利益率
  問屋を育てることによるシステム化
  現場主義(非POSレジ)


一方で、若者に支持されたカウンターカルチャーの常として、業界内からの多くの批判にもさらされてきました。

流通やメーカーサイドは、売れないものやニッチなものを大量に仕入れた結果としての高い返品率を決して歓迎しません。
離職率の高さゆえに店長がころころ変わり、そのたびに仕入れた本が全部返品されてしまうことも多々あります。
ローコスト運営は低賃金長時間労働の温床になっており、高い離職率にもつながっている。
「遊べる」若い独身者はいいですが、ある程度のキャリアを積んだ書店員が人生設計やマネープラン、しいては家庭を持つことなどは真面目に考えられない空間でもある。まともな社会人には過酷な職場環境ともいえます。

老舗書店などからは、そもそもVVは「書店」じゃないという蔑視も向けられます。
これは、本好きの老若男女誰からも愛される書店でなければならない、という教養主義的読書信仰からくるものでしょう。若者以外を切り捨てたVVの売上の7割は雑貨で、本の売上はわずか3割でしかないことがその批判の根拠になっています。
しかし、その観点でみた場合、出版業界を長く支えてきた町の本屋さんは果たして書店といえるのでしょうか?
売れ筋のベストセラーがあまり入らない町の本屋さんの売上の多くは本以外のコミックや写真集、雑誌などで占められています。

倒産していった多くの町の本屋さんは書店ではなかった、と言えるでしょうか?

「誰からも愛されたい人は、誰からも愛されない」

業界の反逆児として嫌われ続けたVV創業者・菊地敬一の名言です。
遊び呆けたダメ学生として留年を重ね、業界の良識に抗うコンセプトを掲げ続けた菊地は、若者が集うコミュニティの創造主となりました。

本から遠ざかりつつあった若者たちのカリスマとなった彼の言葉は、書店の現状に対するテーゼでもあったのです。




 

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